PFAS(有機フッ素化合物)とは?
有機フッ素化合物(PFAS)とは、炭素にフッ素が結合した化合物の総称で、その代表的なものがPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸、またはペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(パーフルオロオクタン酸、またはペルフルオロオクタン酸)です。
水と油の両方をはじく特徴を持つため、身近なところでは、フライパンや鍋の焦げつきを防止するためのフッ素樹脂加工、ハンバーガーやピザ用の油をはじく包装紙、防水スプレー、家具やカーペット、衣類などの汚れ防止のためのコーティング剤に使われてきました。また、大型駐車場や空港・軍事施設などで使われる泡消火剤にも使用されてきました。
有機フッ素化合物のもう一つの特徴が、環境中に放出された後も分解されずに残留しつづけることです。その特徴のためPFOSとPFOAは、「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」で、2009年と2019年に製造・輸入・使用が原則禁止されました。しかし、これまで使われてきたPFOSとPFOAによる環境汚染は継続しています。沖縄では米軍基地での泡消火剤由来と疑われる地下水・飲料水汚染が問題になっており、また同様の汚染が東京多摩地区の地下水からも見つかっています。
またPFOSとPFOAの代替物は別の有機フッ素化合物ですが、それら代替物の安全性評価は不十分なので、製品経由のばく露の影響はなくなっていません。代替物の一つであるPFHxS(パーフルオロヘキサンスルホン酸、またはペルフルオロヘキサンスルホン酸)については、現在POPs条約で禁止が検討されています。
人への主要なばく露源は、汚染された飲料水や魚介類などの食品ですが、ファストフードを食べる回数の多い人は包装紙から溶け出た有機フッ素化合物を摂取するという研究もあるので要注意です。
PFASの子どもへの影響
有機フッ素化合物は、環境中で分解されにくく、体内に蓄積しやすい性質を持っています。海外では「永遠に残る化学物質」と呼ばれ、ダイオキシンやポリ塩化ビフェニル(PCB)のような問題となることが懸念されています。米国人や日本人を対象とした調査では、ほぼ100%の人の血液から有機フッ素化合物が検出されています。
その有害影響は、大人ではがん(精巣・腎臓)、高コレステロール血症、潰瘍性大腸炎などの影響が指摘されています。子どもでは低出生体重、ぜん息などの免疫異常、甲状腺ホルモンのかく乱、脳の発達阻害などが指摘されています。
毒性についてはまだ未解明の部分も多く、リスク評価と健康に影響がないと思われる摂取量(耐容摂取量)の設定が各国で行われています。しかし、設定値より低い摂取量での有害影響がわかってきたり、また代替物の有機フッ素化合物の毒性も見つかったりしています。
安全基準
PFOS/PFOAに関しては、世界各国で耐容一日摂取量(TDI)が設定されてきています。2012年頃までは、人の実際の摂取量は、TDIよりはるかに低いので問題ないと考えられてきました。しかし近年、新しい毒性試験によってTDIが下げられ、2018年に欧州食品安全機関(EFSA)が決めた耐容週間摂取量(TWI)を超えるPFOS/ PFOAを摂取している人はかなりの割合に上ります。
魚介類など食品経由のばく露についての基準値はまだ設定されていません。飲料水で、残留量の目標値を設定する動きが出てきており、汚染がひどい米国では、2016年に飲料水への基準(生涯健康勧告値)をPFOS/ PFOA合計で水1当たり70ngに設定しました。
日本でも、厚労省で飲料水水質基準にPFOS/PFOAの暫定目標値の設定が検討され、2020年4月から従来の「要検討項目」から「水質管理目標設定項目」に格上げされ、暫定目標値をPFOS/PFOAの合計で水1当たり50ngと設定することが決定されました。それに伴い環境省でも、公共用水域の水質基準として同じ値が設定されました。スウェーデンでは水道水についてPFOS/ PFOAを含む11物質の合計値を基準値として設定していますが、日本ではPFOS/PFOA以外の有機フッ素化合物についての基準値設定の動きはありません。
家庭用品や容器包装に関する有機フッ素化合物の含有量や溶出量の基準も設定されていません。
求められる規制
1)水道水の目標値には、PFOS/PFOAだけでなく、代替物の有機フッ素化合物も含めた合計値とすること。
2)魚介類などの食品での残留基準の設定と、とくに汚染度が高い水域や残留量が多い魚種などの情報提供を実施すること。
3)地下水が高濃度に汚染されている地域の住民を対象に、血液検査と健康調査(バイオモニタリング)を継続的に実施すること。
4)フライパンをはじめとする家庭用品については、家庭用品規制法で有機フッ素化合物全体を対象物質リストに入れて使用を規制すること。
5)包装紙については、食品衛生法の容器包装の規格基準の対象に有機フッ素化合物全体を入れて、含有量・溶出量に関する規格基準を設定すること。